開発記事公開日
AIに図面を読ませると、機器が50個を超えたあたりで接続が崩れる
この記事で分かること
公開されている単線結線図をAIに読ませたところ、機器が50〜70個を超える図面で、半分以上の機器がどこにもつながらなくなりました。解像度を上げても直らなかった理由、否定した仮説、図面を4つに割って読ませた結果を記録します

目次 読みたいところから
AIに図面を読ませるとき、図面が大きければ解像度を上げればよい、と考えていました。単線結線図を構造化データにするツールの検証で、公開されている図面11枚を読ませてみると、機器が50個を超えたあたりから、読み取った機器の半分以上がどこにもつながっていない結果が返ってきました。解像度を上げても直りませんでした。原因の見立てを2回外したあと、図面を4つに割って読ませる方法で持ち直した経緯を記録します。
11枚の図面で見えた境目
ツールは、単線結線図の画像を Google の Gemini(gemini-3-flash-preview)に読ませ、遮断器や変圧器などの機器と、そのつながりをグラフとして取り出します。機器を見つける段と、機器どうしのつながりをたどる段が分かれていて、つながりをたどる段には、機器ごとに番号札を描き込んだ図面の画像を1枚渡します。モデルは番号で機器を指しながら、どの機器とどの機器がつながっているかを答えます。
検証には、官公庁や自治体などが公開している高圧受電設備の単線結線図を使いました。長辺3000ピクセルの画像にそろえた11枚を1回ずつ読ませ、どの機器とも線でつながらなかった機器(孤立した機器)の割合を数えると、機器の数との関係がはっきり出ました。
機器50個以下の図面では、孤立はほぼ0から6%に収まりました。56個以上の図面では13から61%に跳ね、109個の図面では109個中66個が孤立し、グラフは67個の断片に割れました。単線結線図はほぼ一本の木に母線がぶら下がる形をしているので、機器の半分以上が浮いている時点で、図面としては使えません。
解像度を上げても、AIに届く情報は増えない
最初に疑ったのは、モデルに渡る情報の量です。ただ、ここで一度間違えています。最初の報告では、つながりをたどる段の入力が11枚とも同じ1,632トークンだったことを根拠に「図面の大きさに関わらず情報量が一定」と書きました。11枚とも同じ長辺3000ピクセルにそろえて渡したのだから、入力の量がそろうのは当然で、何の根拠にもなっていませんでした。
測り直すため、同じ図面をさまざまな大きさにしてトークン数だけを数えました。64×45ピクセルでも、4000×2827ピクセルでも、このモデルでは画像1枚が約1,092トークンで一定でした。解像度を上げても、モデルが受け取る情報の量は増えません。そうなると、1枚に写る機器が増えるほど、機器1個あたりの情報は減ります。機器28個の図面では1個あたり約39トークンだったのが、109個の図面では約10トークンになります。
出力の側にも同じ傾向が出ていました。機器1個あたりの出力トークンは、28個の図面の約49から、109個の図面の約17まで下がります。出力の上限に当たって途中で切れたわけではありません。モデルは最後まで答えたうえで、不完全な答えを返していました。
番号札が線を隠している、という仮説
次に疑ったのが番号札です。つながりをたどる段に渡す画像を書き出して目で確かめると、番号札は直径84ピクセルで、30から60ピクセルほどの機器の記号より大きく描かれていました。札は機器や他の札とは重ならないように置かれますが、線を避ける仕組みはありません。空いて見える場所に置かれた結果、まさに配線が走っている場所に札が乗っていました。109個の図面では、札どうしが接して赤い塊になり、その下の配線が見えなくなっていました。
これで崩れる理由が分かった、と記録にも書きました。札を小さくすれば線が見えるようになり、つながりも回復するはずです。
確かめるため、見つけた機器を固定し、つながりをたどる段だけを変えて比べる測定台を作りました。7枚の図面で、札を小さくした場合と元のままの場合を3回ずつ実行すると、4枚で改善し、3枚で悪化しました。77個の図面では、孤立した機器が平均16.3個から40.0個に増えています。半透明の札も試しましたが、ばらつきと孤立が増えただけでした。札が線を隠していること自体は目で確かめた事実でしたが、崩れる主な原因ではありませんでした。
図面を4つに割って読ませる
残った説明は、1枚の画像に載る情報の量でした。そこで、図面を縦横2つずつ、重なりを15%持たせた4枚のタイルに割り、タイルごとにつながりをたどらせてから、全体の座標に戻して合わせる方法を試しました。機器は中心がどのタイルに入るかで割り当て、同じ機器の組の線はひとつにまとめます。
4つの規模すべてで、はっきり改善しました。孤立した機器は、56個の図面で平均13.7個から0個、77個で28.0個から3.3個、109個で54.0個から24.0個に減っています。実行ごとのばらつきも縮み、77個の図面では線の本数の標準偏差が14.2から6.2になりました。規模が大きいほど効くのは、1枚に写る機器が減った分だけ機器あたりの情報が戻る、という説明とそのまま合っています。
割るとタイルの数だけ呼び出しが増え、費用はおよそ4倍になります。機器38個の図面で分割の寄与を測ると、接続の点数の上がり幅は0.017でした。そこで、分割は機器50個以上の図面だけに使うことにしました。組み込んだ形で大きい2枚を測り直すと、109個の図面は孤立が61%から2%に、77個の図面は55%から0%になり、図面全体がひとつながりのグラフに戻りました。費用は図面1枚あたり0.33から0.37ドル、時間は約4.5分です。
割っても残る2つの問題
1つめは、線の正しさです。分割の効果を確かめた時点で測れていたのは、取りこぼしが減ったことだけでした。機器56個の図面に95本の線が引かれていて、平均すると機器1個あたり3本以上です。木に近い形の単線結線図としては多すぎ、余計な線が混ざっていると見るのが自然でした。人が作った正解データのある、低圧の分電盤が密な図面で測ると、接続の点数は6回平均で0.368±0.096と、目標の0.80にはまだ届いていません。この数字の揺れ方については「AIの出力は同じ設定でも毎回違う。1回の結果で判断して間違えた記録」に書きました。
2つめは、規模が小さくても起きる誤りです。機器28個の図面を目で全数確認すると、機器はほぼ完璧に見つけていた一方で、28本の線のうち7から8本が誤りでした。母線につながるはずの線が母線を飛ばして機器どうしを直結していたり、低圧側の計器への線を別の種類と取り違えたりしていました。高圧側の同じ構造は正しく読めているのに、低圧側では3回路すべてで同じ崩れ方をしています。別の41個の図面でも、母線から出る4回路のうち2回路の遮断器と、4組すべての計器が孤立していました。並んだ同じ構造の2つめ以降を落とす傾向で、規模の崩れもこの延長にある可能性が高いと見ています。

解像度ではなく、1枚あたりの量
振り返ると、最初の2つの見立ては、どちらも目に見える手がかりに引っ張られていました。入力のトークン数がそろっていること、札が線に乗っていること。どちらも事実でしたが、崩れる理由ではありませんでした。効いたのは、1回の呼び出しに載せる機器の数を減らすことです。このモデルでは画像1枚に届く情報の量が決まっているので、大きな図面や表を読ませるときは、解像度より先に、何枚に割って渡すかを考えることになります。単線結線図の描き方そのものは「単線結線図の一枚目に、確認事項がついてくる」で扱っています。
割ったことで浮いた機器はほぼなくなりました。残っているのは、つながった線がどこまで正しいかという問いです。その答えは、正解データを持つ図面を増やして測るまで出せません。




