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移動式クレーンの定格荷重とは — 作業半径との関係をわかりやすく

移動式クレーンの定格荷重・定格総荷重・つり上げ荷重の違いと、作業半径が大きくなるほど吊れる重さが減る理由を解説します。転倒災害の典型パターンと必要資格の区分もまとめます
「このクレーンは4.9トン吊りだから、4トンの荷物は吊れる」——この理解は危険です。クレーンが安全に吊れる重さは1つの数字ではなく、ブームをどれだけ伸ばし、どれだけ倒しているか(作業半径)によって大きく変わります。カタログ上の最大値だけを見て作業すると、転倒災害に直結します。この記事では、定格荷重と作業半径の関係を、用語の整理から解説します。
まぎらわしい3つの用語を整理する
移動式クレーンの「吊れる重さ」には、似た言葉が3つあります。
- つり上げ荷重 — その機体の構造上の最大能力。最も条件が良い状態(作業半径最小・アウトリガー最大張出など)で吊れる最大の重さで、フックなどの吊具の重さも含みます。「4.9トン吊り」のような機体の呼び名はこの値です。資格の区分もこの値で決まります。
- 定格総荷重 — その時の作業半径・ブーム長さにおいて吊れる最大の重さ(吊具込み)。作業半径ごとの一覧が定格総荷重表です。
- 定格荷重 — 定格総荷重からフックなど吊具の重さを引いた、実際に荷として吊れる重さ。
現場で問題になるのは、カタログの「つり上げ荷重」ではなく、いまの姿勢での定格荷重です。

なぜ作業半径が大きいと吊れなくなるのか
理由は、シーソーと同じモーメント(回転させようとする力)です。
クレーンの転倒は、荷の重さ×作業半径で決まる転倒モーメントが、機体の重さとアウトリガーの張り出しで決まる安定モーメントを上回ったときに起きます。荷の重さが同じでも、作業半径が2倍になれば転倒させようとする力はおおむね2倍になります。だから、ブームを寝かせて遠くの荷を取りに行くほど、吊れる重さは急激に減っていきます。
数字の感覚を持つために、小型の機体の定格総荷重表にありがちな傾向を挙げると、作業半径が最小のときに数トン吊れる機体が、半径10メートル前後では数百キロしか吊れない、というのは珍しくありません。「最大4.9トン」の機体が、遠くの荷に対しては軽トラック1台ぶんも吊れない。この落差を体で知っていることが、転倒災害を防ぐ第一歩です。
転倒災害の典型パターン
労働災害の事例で繰り返し現れるのは、次のパターンです。
- 作業半径の見積もり不足 — 吊り上げは半径が小さい位置で始め、旋回やブーム操作で荷が遠くへ移動し、途中で定格を超える
- アウトリガーの張り出し不足 — 最大張出を前提にした能力表を、中間張出のまま適用してしまう。張り出しが狭ければ安定モーメントは小さくなり、吊れる重さは大きく下がります
- 地盤の沈下 — アウトリガー下の地盤が軟らかく、敷板が不十分で片側が沈み込む
- 荷の重さの見積もり違い — 「だいたい1トンくらい」で吊ったら実際は1.5トンあった

現在の機体には定格荷重を超えると警報・停止する過負荷防止装置が備わっていますが、地盤の沈下や荷の振れまで防いでくれるわけではありません。装置は最後の砦であって、計画の代わりにはなりません。
必要な資格の区分
移動式クレーンの運転に必要な資格は、機体のつり上げ荷重で区分されるのが基本です(一般的な区分)。
- 5トン以上 — 移動式クレーン運転士免許
- 1トン以上5トン未満 — 小型移動式クレーン運転技能講習
- 0.5トン以上1トン未満 — 特別教育
また、荷をフックに掛ける玉掛け作業は運転とは別の資格で、つり上げ荷重1トン以上の機体では玉掛け技能講習の修了が必要です。詳細な適用は法令と講習機関の案内で確認してください。
「知っている」と「体感している」の間
定格荷重の理屈は、ここまでの説明で「知る」ことができます。しかし、旋回で荷が遠ざかるにつれて機体が傾き始める感覚や、警報が鳴ってから対処するまでの時間の短さは、文章では伝わりません。
BenriWorksでは、この体感の部分を安全に経験するための無料アプリ「移動式クレーン安全シミュレーター」を公開しています。ブラウザ上の物理演算で、過負荷とアウトリガー不足による転倒をあえて体験するシナリオを収録しており、KY活動や安全教育の題材としてそのまま使えます。

クレーンがどういう力学で転倒するかを図解した開発記事「クレーンの転倒判定を支持多角形で考える」もあわせてどうぞ。

まとめ
- 吊れる重さは1つの数字ではなく、作業半径ごとの定格荷重で決まる
- 理由はモーメント。半径が伸びるほど転倒させる力が大きくなる
- 典型災害は「半径の見積もり不足・アウトリガー張出不足・地盤・荷重の見積もり違い」
- 理屈を知ったら、シミュレーターで「超えるとどうなるか」まで体験しておく
よくある質問
- つり上げ荷重・定格総荷重・定格荷重は何が違うのですか
- つり上げ荷重は、最も条件が良い状態で吊れる機体の構造上の最大能力で、4.9トン吊りのような機体の呼び名や資格の区分はこの値です。定格総荷重はその時の作業半径・ブーム長さで吊れる最大の重さ、定格荷重はそこからフックなど吊具の重さを引いた値です。
- なぜ作業半径が大きいと吊れる重さが減るのですか
- 転倒がモーメント(回転させようとする力)で決まるからです。荷の重さ×作業半径の転倒モーメントが、機体の重さとアウトリガーの張り出しで決まる安定モーメントを上回ると転倒します。荷が同じ重さでも、作業半径が2倍になれば転倒させる力はおおむね2倍になります。
- 4.9トン吊りの機体なら、4トンの荷は吊れますか
- 姿勢によります。作業半径が最小のときに数トン吊れる機体が、半径10メートル前後では数百キロしか吊れないことは珍しくありません。カタログのつり上げ荷重ではなく、いまの姿勢での定格荷重を、その機体の定格総荷重表で確認してください。
- 転倒災害にはどんな典型パターンがありますか
- 作業半径の見積もり不足(旋回やブーム操作で荷が遠くへ移動し、途中で定格を超える)、アウトリガーの張り出し不足、アウトリガー下の地盤の沈下、荷の重さの見積もり違いが繰り返し現れます。
- 移動式クレーンの運転にはどんな資格が必要ですか
- 機体のつり上げ荷重で区分されるのが基本で、5トン以上は移動式クレーン運転士免許、1トン以上5トン未満は小型移動式クレーン運転技能講習、0.5トン以上1トン未満は特別教育が一般的な区分です。玉掛け作業は運転とは別の資格で、つり上げ荷重1トン以上の機体では玉掛け技能講習の修了が必要です。





