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移動式クレーンの定格荷重とは — 作業半径との関係をわかりやすく

白いヘルメットと高視認性ベストを着けた現場監督が定格荷重表を手にし、背後に移動式クレーンが見える

移動式クレーンの定格荷重・定格総荷重・つり上げ荷重の違いと、作業半径が大きくなるほど吊れる重さが減る理由を解説します。転倒災害の典型パターンと必要資格の区分もまとめます

「このクレーンは4.9トン吊りだから、4トンの荷物は吊れる」——この理解は危険です。クレーンが安全に吊れる重さは1つの数字ではなく、ブームをどれだけ伸ばし、どれだけ倒しているか(作業半径)によって大きく変わります。カタログ上の最大値だけを見て作業すると、転倒災害に直結します。この記事では、定格荷重と作業半径の関係を、用語の整理から解説します。

まぎらわしい3つの用語を整理する

移動式クレーンの「吊れる重さ」には、似た言葉が3つあります。

  • つり上げ荷重 — その機体の構造上の最大能力。最も条件が良い状態(作業半径最小・アウトリガー最大張出など)で吊れる最大の重さで、フックなどの吊具の重さも含みます。「4.9トン吊り」のような機体の呼び名はこの値です。資格の区分もこの値で決まります。
  • 定格総荷重その時の作業半径・ブーム長さにおいて吊れる最大の重さ(吊具込み)。作業半径ごとの一覧が定格総荷重表です。
  • 定格荷重 — 定格総荷重からフックなど吊具の重さを引いた、実際に荷として吊れる重さ。

現場で問題になるのは、カタログの「つり上げ荷重」ではなく、いまの姿勢での定格荷重です。

移動式クレーン安全シミュレーターの画面。左に3Dの現場とブームを伸ばしたクレーン、右の計器パネルに作業半径4.98メートル、定格荷重1.61トン、安定余裕97パーセント、許容モーメント78.7キロニュートンメートルが表示されている
定格荷重は「いまの姿勢」で決まる値。この姿勢では作業半径4.98mに対して定格荷重1.61t(移動式クレーン安全シミュレーターの画面)

なぜ作業半径が大きいと吊れなくなるのか

理由は、シーソーと同じモーメント(回転させようとする力)です。

クレーンの転倒は、荷の重さ×作業半径で決まる転倒モーメントが、機体の重さとアウトリガーの張り出しで決まる安定モーメントを上回ったときに起きます。荷の重さが同じでも、作業半径が2倍になれば転倒させようとする力はおおむね2倍になります。だから、ブームを寝かせて遠くの荷を取りに行くほど、吊れる重さは急激に減っていきます。

転倒をシーソーに見立てた模式図。中央の三角が転倒支点(アウトリガーの接地点)で、左に機体の重さ×アウトリガー張り出しの安定モーメント、右に荷の重さ×作業半径の転倒モーメントが向かい合う。下段ではアウトリガーを全張り出しにすると支点が遠く安定側が大きく、最小張り出しでは支点が近く安定側が小さくなることを比較している
転倒モーメント(荷の重さ×作業半径)が安定モーメントを上回ったときに倒れる

数字の感覚を持つために、小型の機体の定格総荷重表にありがちな傾向を挙げると、作業半径が最小のときに数トン吊れる機体が、半径10メートル前後では数百キロしか吊れない、というのは珍しくありません。「最大4.9トン」の機体が、遠くの荷に対しては軽トラック1台ぶんも吊れない。この落差を体で知っていることが、転倒災害を防ぐ第一歩です。

左にブームを立てた姿勢と寝かせた姿勢の側面図、右に作業半径ごとの定格荷重の棒グラフ。半径2.0mで3.3t、3.0mで3.0t、4.0mで2.2t、5.0mで1.6t、6.0mで1.1t、7.5mで0.6tと、半径が伸びるほど吊れる重さが急に減っていく
同じ機体・同じブーム長さでも、半径が2.0mから7.5mに伸びると吊れる重さは3.3tから0.6tまで落ちる

転倒災害の典型パターン

労働災害の事例で繰り返し現れるのは、次のパターンです。

  • 作業半径の見積もり不足 — 吊り上げは半径が小さい位置で始め、旋回やブーム操作で荷が遠くへ移動し、途中で定格を超える
  • アウトリガーの張り出し不足 — 最大張出を前提にした能力表を、中間張出のまま適用してしまう。張り出しが狭ければ安定モーメントは小さくなり、吊れる重さは大きく下がります
  • 地盤の沈下 — アウトリガー下の地盤が軟らかく、敷板が不十分で片側が沈み込む
  • 荷の重さの見積もり違い — 「だいたい1トンくらい」で吊ったら実際は1.5トンあった
砂利敷きの現場で、移動式クレーンのアウトリガーが張り出され、円形の鉄製プレートが木製の敷板の上に接地している足元のクローズアップ。奥にも同じように敷板の上に据えられたもう一脚のアウトリガーが見える
安定モーメントは、張り出し幅と足元の地盤で決まる。敷板は「載せてある」ではなく、沈まない広さで載っているかが問われる

現在の機体には定格荷重を超えると警報・停止する過負荷防止装置が備わっていますが、地盤の沈下や荷の振れまで防いでくれるわけではありません。装置は最後の砦であって、計画の代わりにはなりません。

必要な資格の区分

移動式クレーンの運転に必要な資格は、機体のつり上げ荷重で区分されるのが基本です(一般的な区分)。

  • 5トン以上 — 移動式クレーン運転士免許
  • 1トン以上5トン未満 — 小型移動式クレーン運転技能講習
  • 0.5トン以上1トン未満 — 特別教育

また、荷をフックに掛ける玉掛け作業は運転とは別の資格で、つり上げ荷重1トン以上の機体では玉掛け技能講習の修了が必要です。詳細な適用は法令と講習機関の案内で確認してください。

「知っている」と「体感している」の間

定格荷重の理屈は、ここまでの説明で「知る」ことができます。しかし、旋回で荷が遠ざかるにつれて機体が傾き始める感覚や、警報が鳴ってから対処するまでの時間の短さは、文章では伝わりません。

BenriWorksでは、この体感の部分を安全に経験するための無料アプリ「移動式クレーン安全シミュレーター」を公開しています。ブラウザ上の物理演算で、過負荷とアウトリガー不足による転倒をあえて体験するシナリオを収録しており、KY活動や安全教育の題材としてそのまま使えます。

シミュレーターで転倒が起きた直後の画面。「クレーンが転倒しました。」の赤い表示と事故レポートが出ており、要因として作業半径6.7メートル、吊り荷重2800キログラム、アウトリガー設定は最小張り出し、過負荷防止装置の解除中が並んでいる
転倒したあとに、何がそろっていたのかが要因として残る。半径6.7mで2.8tを、最小張り出し・過負荷防止装置の解除で吊った結果

クレーンがどういう力学で転倒するかを図解した開発記事「クレーンの転倒判定を支持多角形で考える」もあわせてどうぞ。

案内役のイラスト。ヘルメットをかぶった男性エンジニアが定格荷重表を指さし、背後に移動式クレーンの影が見える。左に「定格荷重は半径で変わる 作業半径とつり上げ能力の関係」というキャッチコピーが入っている
つり上げられる重さは、作業半径によって変わります

まとめ

  • 吊れる重さは1つの数字ではなく、作業半径ごとの定格荷重で決まる
  • 理由はモーメント。半径が伸びるほど転倒させる力が大きくなる
  • 典型災害は「半径の見積もり不足・アウトリガー張出不足・地盤・荷重の見積もり違い」
  • 理屈を知ったら、シミュレーターで「超えるとどうなるか」まで体験しておく

よくある質問

つり上げ荷重・定格総荷重・定格荷重は何が違うのですか
つり上げ荷重は、最も条件が良い状態で吊れる機体の構造上の最大能力で、4.9トン吊りのような機体の呼び名や資格の区分はこの値です。定格総荷重はその時の作業半径・ブーム長さで吊れる最大の重さ、定格荷重はそこからフックなど吊具の重さを引いた値です。
なぜ作業半径が大きいと吊れる重さが減るのですか
転倒がモーメント(回転させようとする力)で決まるからです。荷の重さ×作業半径の転倒モーメントが、機体の重さとアウトリガーの張り出しで決まる安定モーメントを上回ると転倒します。荷が同じ重さでも、作業半径が2倍になれば転倒させる力はおおむね2倍になります。
4.9トン吊りの機体なら、4トンの荷は吊れますか
姿勢によります。作業半径が最小のときに数トン吊れる機体が、半径10メートル前後では数百キロしか吊れないことは珍しくありません。カタログのつり上げ荷重ではなく、いまの姿勢での定格荷重を、その機体の定格総荷重表で確認してください。
転倒災害にはどんな典型パターンがありますか
作業半径の見積もり不足(旋回やブーム操作で荷が遠くへ移動し、途中で定格を超える)、アウトリガーの張り出し不足、アウトリガー下の地盤の沈下、荷の重さの見積もり違いが繰り返し現れます。
移動式クレーンの運転にはどんな資格が必要ですか
機体のつり上げ荷重で区分されるのが基本で、5トン以上は移動式クレーン運転士免許、1トン以上5トン未満は小型移動式クレーン運転技能講習、0.5トン以上1トン未満は特別教育が一般的な区分です。玉掛け作業は運転とは別の資格で、つり上げ荷重1トン以上の機体では玉掛け技能講習の修了が必要です。

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